貴方の涙
崩れ落ちる体を見下ろす。
「なんでこんなとこに来たんだよ」
荒い息遣いが耳障りだ。
つい先程まで戦場と化していた室内には、自分と男以外に誰もいない。
ヒュッと細い空気の音がしたかと思うと息遣いが更に激しいものになった。
体を二つに折りたたむ男は必死に生きようともがいている。
見開いた青い瞳からこぼれ落ちた涙が床を濡らした。
……―― 綺麗な蒼色だ。
「ちっ」
男のシャツの襟を掴み顔を上げさせる。
苦しそうに歪んだ美しい顔が普段ならば笑いを誘うところだが、今日ばかりは忌ま忌ましい。
顎を力任せに掴み、無理矢理に唇をあわせた。
「……」
「はっ…ぁ…ぅ」
「……」
美しいものは歪んでも美しいのか。
貪りつきたくなる。
近すぎて焦点のあわない顔を見ながら、そんなことを思った。
抗いがたい魅惑を孕んだ瞳は、苦しげに閉じられている。
整っていく呼吸のリズムを感じ、唇を離す。
血のついた口元を拭うと、革手袋に黒い染みがついた。
未だ肩を上下させている男がやっと顔を上げる。
「助けたつもりが返り討ち。仕舞いにゃ過呼吸だ?
格好がつかないにも程があるだろう」
手近にあった椅子に乱暴に座る。
大きな音をたてて、椅子が悲鳴をあげた。
「なんとか言えよ、髭」
男は、息も絶え絶えになりながら言った。
「お姫様のキスで命が助かるっていうのも悪くないね」
瞳からは ぽろり と雫が零れた。
あなたの涙
(蒼い瞳から零れた雫は 同じように蒼かった)
love:東京事変
設定:狙われていた英を助けようとしたら役に立たない仏とかそんな感じ。あまり深く考えていない。
2009/09/07
reset