僕だけ見ててね?
なんだってこんなことになったんだろう。
イギリスは間近に迫った紫の瞳を眺めながら考えていた。
たしか、会議後に目の前の男と口論(とは言っても半ばイギリスが一方的に罵っていただけだったが)になったのは覚えている。
運悪く場所は廊下で、まわりに止めてくれるような者はいなかった。
互いの苛立ちが募っていくのを感じていた。空気が異様なほど冷たく感じたとき、生理的に体が震えた。
そうだ。ここで頬に手が添えられたのだ。そして現在。
「よく回る口だよね」
穏やかな、だが底無しに冷えた声。
「ちょっとイライラしてきちゃった」
笑っているが、決して笑っていない瞳。なんだってこんな顔が出来るのか理解できない。
「あぁ、でも」
目の前の男は何か気付いたかのように口端を上げた。
子どもが、おもしろいことを発見したような表情だ。
「いまイギリスくんは僕のことしか考えてないのは嬉しいかな」
何を言っているのだろうか。頭が悪いのか。
「ひどいなぁ。僕は君が好きなだけだよ」
やはり頭がどっかイカれてるらしいな。
「好きな人に振り向いてもらいたいと思うのは当然でしょう、」
デカイ図体に似合わず、なんとも乙女らしい思考回路。
「だから僕のことだけ見てて欲しいのに」
ぐっと近寄る紫の瞳。
近い。
あからさまに嫌な顔をすれば、男はすっと表情を消した。
冷たい手のひらの感触がやけに生々しい。
「実際はイギリスくん、違うとこばっか見てるから、」
”だったらいっそ、そんな瞳なければいいのにね”
目の前が赤く染まった。
「っ…!!」
目が沁みて仕方がない。
ぼろぼろと、生理的な涙がこぼれた。
あまりの出来事に対応が遅れてしまった。
涙が止まらない瞳をおさえて片目で男を睨むと、男は素知らぬ顔で笑っていた。
「イギリスくんの瞳は綺麗だなぁ」
食べちゃいくらい。
そう言って、男は眼球を舐めた舌をちらりと覗かせた。
僕だけ見ててね?
(俺の眼球は飴玉じゃない!)
2009/01/04
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