愛してる、なんて美しすぎて信じられない。
使い古された言葉。
それにどれだけの価値がある。
唇が覚えてる、機械的に繰り返されるその動き。
聞き飽きた。
心なんてこれっぽっちも入っていない空っぽな囁き。
なんて優しい言葉なんだろう。
「なあ、アーサー」
誰もいなくなった会議室。
そこの大きく、使い心地のいい椅子に深く腰掛けている自分と、テーブルの上にだらしなく腰掛けている男。
「フランシスのこと好きなん?」
まるで世間話でもするかのように切り出してきた男は、窓の外に広がる空を見ていた。
「馬鹿じゃねぇの」
笑わせんな。何百年も前から、大嫌いだよ。
「いつも一緒におるやん」
「仕方なくな。好きでいるわけじゃない」
「のわりには仲ええよな」
実に下らない。
あまりに下らないから、俺は鼻で笑っただけで言葉を発することはしなかった。
しかし、それでもアントーニョは懲りずに離しかけてくる。
「フランシスとは寝たん?」
本当に、俺に何を求めているのだろうか。
イエスとでも言えばいいのだろうか。
「なあアーサー」
アントーニョがのしかかり、俺を椅子に縫いとめる。
暗い瞳に覗き込まれ、なぜだか息苦しくなった。
「愛しとる」
頬に、首に、柔らかいものが、優しく薄っぺらい言葉とともに押し付けられる。
「せやから俺のもんになって」
自分が愛しているから自分のものになれなんて、なんて都合のいい男だろうか。
次第に、互いの息が上がる。
「誰にも渡さへんよ」
馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたが、やはりこの男は馬鹿だ。
下らない。下らなさすぎる。
昔から、ずっと昔から俺が欲しいものは……――。
愛してる、なんて美しすぎて信じられない
(窓の外では、嫌味なくらい綺麗な緑が揺れている。)
2007/12/10
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