2009年エイプリル企画の隠しSS。
ありえないことだが、それは起こった。
「どういう風の吹き回しなん?」
思わず恐る恐る尋ねてしまうのは仕方の無いことだろう。だって考えてもみて欲しい。
性格が曲がりきって、殴る蹴るを愛情表現だと笑っていう人間が薔薇の花束を持って訪ねてくるなんて、何か裏があると思ってしまう。
「俺が薔薇をプレゼントしちゃ悪いのかよ」
「そういうわけやないけど……。なんでまた急に?」
聞くと目の前の男は、目線を僅かに逸らし言い辛そうに小さな声で呟いた。
「こないだの、お詫びだよ」
「こないだの?」
「……俺と髭が喧嘩した時、巻き込んで怪我させただろ」
そういえば、そんなこともあった。アーサーとフランシスが喧嘩することなど日常茶飯事なので忘れていたがあの時は大変だった。
二、三日の間、体が使い物にならなくなり、上司に大目玉を食らった痛い記憶が蘇る。
「それで、来てくれたん?」
「……これでも悪いと思ってるんだよ」
―― 一応、恋人だしな。
下手をすると聞き逃してしまいそうなほどの声で、アーサーは確かにそう言った。
悔しそうに頬を染め、唇を噛むアーサーは愛らしい。その様子につい目尻が下がってしまう。
可愛いではないか。
「ありがと。めっちゃ嬉しいわ」
俯いたアーサーを薔薇の花束ごと抱きしめ、小さな音をたててキスをした。
「もう元気やから心配せんといて」
「…ん」
続けて額にもキスをすると、照れたようにアーサーは笑い顎の下にキスをしてくれた。
「じゃあ、仕事があるから」
花束を渡される。それをしっかり受け取って、離れていくアーサーを見送った。
車の手前で、ふいにアーサーが振り返った。
花が咲くような笑顔で笑いかけてくる。
唇が、何かを伝えようと動いた。その時だった。
「っ!!」
小さな爆発音とともに、持っていた花束が飛び散った。
「っく…げほっ…!」
煙が気管に入り込んでくる。白い煙の中で赤い薔薇の花弁が舞っている。
暫くして視界が鮮明になると、車に寄りかかりながら大笑いしているアーサーの姿があった。
「お前、もっと怪しがれよなあ!」
大声で笑うアーサーに負けじと、体中に張り付いた花弁を摘んで、声を張った。
「大好きな薔薇傷つけてええと思ってるん」
するとアーサーはその行為も可笑しいのか、さらに笑い出した。
「造花だよ、ばーか! 俺が花を傷つけるようなことするわけねえだろ!」
その言葉に手元の花弁を見ると、なるほど確かによく出来た造花であった。
「お前への花束なんか造りもので十分なんだよ。あと愛もな」
今日初めて見た意地の悪そうな笑みを浮かべると、アーサーはさっさと車に乗り込み、走り去ってしまった。
BOOBY TRAP
(それはありふれたものに隠された爆弾)
2009/04/01
reset