Gryphin






 ひっそりと静まりかえった屋敷は、重圧感を伴って私の前に佇んでいる。
 おそるおそる鉄製の門を押すと、意外にもそれは重々しい音を立てながら動いた。
 錆びついているのか耳障りな音が混ざる。
 少々失礼ではあるが、ここは多めに見ていただこう。
 こんな森の中で野宿するのは避けたいところだ。
 あまりにも招かれざる客であったのならば、せめて人里までの道を教えてもらいたい。
「失礼させてもらうで」
 門をくぐり、屋敷へ向かう。
 月明かりの下でレンガ造りのその屋敷は、まるで木々に埋もれるようにして不気味にそびえ立つ。
 二体のグリフィンの像が突然の来訪者を警戒しているようだ。
 鋭い四つの瞳の間を擦り抜ける。
 扉の前に立つと、大きく息を吸った。
 ドアノブに手をかけようとする。
 しかし、ドアノブに施された装飾を見て思わず手が止まってしまう。
 どう見ても、悪魔のようなそれに、私は眉をひそめた。
「……ここの主人、ちょっと怖い人なんやろか……」
 屋敷全体の雰囲気もあいまって、少し怖気づく。
 どうしても嫌な人物像ばかりが思い浮かんでしまい、溜息がもれる。
 どうか、優しい良い人でありますように。そして出来れば美人さんで……。
 そんな到底叶わないだろう願いを込めて、私はノックした。
 古めかしいドアノブは、想像通りの重量感で鈍い音をたてた。
「……」
 しばらく待っても何の反応もない。
「……」
 聞こえないのだろうか。
 大きな屋敷だ。
 こんなノック音では気付かないのも当然か。
 そう考え、ベルか何かないだろうかときょろきょろと視線を動かしている時だった。
 ぎぎっ……。
 やはり、重々しい音を立てて扉が開いた。
「……何か?」
 扉から現れた瞳に、はっとする。
 くすんだ金髪に彩られた幼い顔立ち。
 そんな顔立ちに似合わぬ深い森のような瞳に見つめられ、私はそれこそ魂を抜かれたように呆けてしまった。
 かっちりとしたシャツを着こみ、きゅっと閉じられた唇。
 目の前に立つのは禁欲的な美人。
 ただあまり優しそうではないな、と扉から現われた美人を見て私は思った。
 


Gryphin
欲にまみれた人間を罰する獣

2010.10.26

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